アン・リー(李安監督)の話題の映画「ラスト・コーション」、原作は張愛玲の『色、戒』という短編小説である。これを初めて読んだとき違和感があったのが、女学生が「美人局」というか「美人計」で暗殺計画の中心的役割を果たす設定である。「暗殺」と「女学生」が長年の間私の中では結びつかなかった。
ようやく「女学生」が「暗殺」計画の中核を担うという設定に納得がいったのは「愛国学社」「愛国女学」の存在を知ったことからである。
「愛国学社」「愛国女学」は経元善(上海の事業家、中国人による初の女学校である経正女学も設立)の呼びかけで蔡元培等が発起人になって1902年に設立された学校である。蔡元培は、国難に際し、革命の道は暴動と暗殺しかない、と考えて、男子の「愛国学社」では軍事訓練を行って暴動の種をまき、女子の「愛国女学」では女子は暗殺に適しているということで暗殺の種をまこうとした。授業ではフランス革命やロシア虚無党史が講ぜられ、爆弾製造のために理科も重要視するなど、単なる愛国主義の教育ではなく、革命の為の実践的な特殊教育を施そうとしたという。
伝統教育を脱して、新たな時代の女性に求められたものが、自己犠牲的愛国主義であるという、過激でとてつもなく恐ろしい現実に、当時の中国の切実さを感じずにはいられない。
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