ファインマンの素敵なお父さん――『ファインマンさんベストエッセイ』を読む
2008-12-04


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最近我が家で話題になったのが、リチャード・P・ファインマン(物理学者)のエッセイ『ファインマンさんベストエッセイ』という本。夫が、ファインマンの父親の教育のユニークさにしきりに感心して、いろいろ話してくれた。とても印象深い内容だったので、夫が仕事にでかけてから、本をめくってみた。

 ファインマンの子どもの頃の話には、よく父親が登場する。父親と林を散歩しながら自然界の様々なおもしろい出来事を話してくれたそうだ。そのとき、何かの名前を知っていることと、何かを本当に知っていることの違いを、父親に教わったという。父親は本質を大切にする考えの持ち主であった。中でも物の見方として印象的だったのは、「ある種のことについては、世間で尊敬すべきとされているものにも頭を下げないという考えかた」を教えられたというものだ。その教え方というのがなかなか刺激的である。

 「ローマ法王の前に大ぜいの人がひざまづいている写真が載っている。するとおやじは[ほれ、この人間たち見てごらん。ここに人間が一人立っていて、その前で他の人間どもが大ぜいお辞儀しているだろう?だがこっちの人間と、この連中と、いったいどこが違ってるんだろうな?]…中略…[この人だってわしらと同じ人間だ。抱えている問題も同じなら、みんなと同じにメシも食いトイレにも行く、ただの人間だよ。それなのにいったいなぜこっちの連中は、ペコペコするのか?人と違うところは地位と制服だけだ。別に何も特別なことをやり遂げたわけでもないし、名誉をかちとったわけでもない。]」

 他にも興味深かったのは、例えばこんなエピソード。百科事典に恐竜が「この動物は身長25フィート、頭の幅は6フィートもある」と書いてあると、父親はそこでいったん読むのをやめて、「ということはどういうことなのか、ひとつ考えてみようや」といい「つまり25フィートってことは、こいつがうちの庭に立っているとすると、この二階の窓に頭をつっこめるぐらい背が高いっていうことだよ…」このように、本に書いてあることを、実際にはどういうことなのか、現実に当てはめてできるだけの解釈をつけてくれたという。父親のおかげでファインマンはものを読めば、必ずそれがほんとうはどういう意味なのか、いったい何を言おうとしているのか解釈することを覚えたのだそうだ。

 ファインマンの語り口や考え方が面白くて、ついつい引き込まれてしまう。エピソードはいずれもとても面白いし、興味深い。けれど、それ以上にファインマンと父親の関係が素晴らしいと思った。ファインマンのユーモアのセンスは母親ゆずり、とどこかで見たことがあるが、父親も素敵な方だと思う。ファインマンの父親の教育には示唆に富む部分が多く啓発されるが、ただ真似をしてもいい結果はでないだろう。 まずはいい家族関係があって、更にその子の個性にあった教育があり、そして最終的にはやはりその子自身のやる気と自分の道を切り開く力だと思う。

読んだ本:R.P.ファインマン、訳:大貫昌子、江沢洋『ファインマンさんベストエッセイ』(岩波書店、2001)

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