実家に電話したとき、井上先生の喪中欠礼が届いたと聞いて、全身の力が抜けた。井上先生は時折父とお酒を飲み交わす仲で、なにくれとなく家族のことを気に掛けてくださる…長年にわたり最も頼りにしていたかかりつけの先生であり、それ以上の温かい存在だった。
子供時代から風邪をひいたら井上先生のところへ行く、と決まっていた。診察室へ行くといつでも温かく出迎えてくれた。留学へ行くとき破傷風の予防接種をお餞別してくれたのも、家で倒れたときに往診してくれたのも、妊娠中つわりがひどかったときに毎日点滴してくれたのもみんな、井上先生だった。時には軍医として見聞きした戦争時の怖いエピソードを話してくれたりもした。柔和な笑顔と温かい言葉の数々が思い出される。
今年の二月に亡くなったそうだ。遅ればせながら、井上先生のご冥福を心より祈りたい。
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