敗者復活が難しいフランスの学校制度
2011-09-29


忙しいのに、というか、忙しいから?ついつい本に手が伸びてしまって…
昨日は安達功『知っていそうで知らないフランス』を一気読みしてしまった。この本の副題「愛すべきドンデモ民主主義国」に惹かれて手に取ったら、面白くてついついとまらなくなってしまったのだ。

大まかに言って、内容の半分はフランスの社会や文化史、レジスタンスの歴史やフランス人の人権や環境等についての価値観、半分は記者である著者安達氏が見たフランス政界の内側について書かれている。この中で私が最も興味深く読んだのは、第2話「エリートとグランゼコール」である。

フランスではエリートと庶民が明白に分かれており、どの地域で小学校に入るか、で大学に行けるかどうかがほぼ決まるという。例えばパリなら郊外や下町はチャンスは少なく、中心部の方がチャンスが格段に多い、つまり庶民には大学進学のチャンス自体が元々少ないということである。更に職業高校へ行ったら、大学へ入学するチャンスは全く無い。人生の全てが出身家庭や進んだ高校で決まる…のは日本も同じようなものだが、日本の場合は、高校を中退しても大検を受ければ大学に進学できるし、公務員試験や司法試験だって年齢制限等をクリアできれば受験できるから、まだリベンジの機会は残されているように思う。フランスのように、18歳までの経歴で進路が固定され、その後伸びるかも知れない人にチャンスが与えられないとしたら…なんと大きな損失だろう。反対に大学に入ってから、職人の道へ進もうと思っても、それも許されないという。幸い「留学」という手段があるから、道は残されていると言えなくはない。少なくとも、日本と比べてフランス社会に敗者復活の機会が少ないことは明らかである。フランスのエリート社会についての話は折に触れて聞いていたが、ここまでの「単線構造」の社会だったとは!正直驚いた。

では、「単線構造」の頂点にいるエリートとはどういう存在なのだろうか。エリート中のエリート「グランゼコール」出身者は政・官・財・学の全ての分野で特権的な地位をほぼ独占している。グランゼコールとはフランス独自の高等教育専門機関である。大学入学資格取得のための統一試験・バカロレア試験を受けて特に成績優秀な者のみがグランゼコール準備学級(2年間)に進んで1/4ほどに選抜され、卒業後にグランゼコール選抜試験にのぞみ、合格した者だけがグランゼコールに進む。グランゼコールの学生は公務員扱いなので給料も支払われる。卒業後は専攻分野のエリートとして扱われることになる。一般大学出身者とは明白な区別があるらしい。更にグランゼコールはフランス全土に200校ほどあり、その卒業生はエリート中のエリートだが、実は本当の特権階級を形成しているのはグランゼコールの名門数校の卒業生であるという。彼らこそが今のフランスの貴族階級のようなものだ。制度上、誰にでも開かれているように見えながら、実際には庶民には閉ざされているエリートへの道、科挙みたいだ。

そうだ、そもそも、このエリート選抜方法は、どうやら中国の科挙に似ている。つまり、一般大学出身者は科挙の郷試にまで受かった人達、グランゼコール出身者は科挙の殿試にまでいった人達、というところ。そういえば、17−18世紀にかけて、ヨーロッパと中国は貿易商や宣教師を通じた文化交流があり、シノワズリと呼ばれる中国趣味の美術様式が流行った時代があったことはよく知られている。そういえば、乾隆帝に仕えたイエズス会の宣教師が科挙をフランス国王に紹介していたような気がする。うーん、ちょっと調べれば、誰かがきっと何か書いてくれているに違いない。これは今の仕事が終わってから「ちょっと調べ」ようっと。

読んだ本:安達功『知っていそうで知らないフランスー愛すべきトンデモ民主主義国』(平凡社新書)
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