電話の発明者ベルのもう一つの顔――『孤独の克服――グラハム・ベルの生涯』を読む
2009-08-24


昨晩もなかなか眠れなかった。思い切って起き出し、『孤独の克服――グラハム・ベルの生涯』を読んだ。501ページの分厚い本を一気に読むのは爽快だった。この本は日本の電話事業が開始されてから100年を記念してNTTから出版された本であるらしい。

 グラハム・ベルは電話という世紀の発明を成し遂げた成功者であり、ヘレン・ケラーの庇護者としても知られているが、詳しいことはこの本を読むまで知らなかった。

 この本はベルのメモ、書簡や裁判記録、妻メイベルの日記を含む膨大な史料など、詳細な調査に基づいて執筆されている。これを見ると、ベルは発明家としての業績も素晴らしいが、本来の専門の音響学の才能ある研究者であり、視話法の普及に尽くし聴覚障害者教育に大きな貢献をしており、人格的にも優れた人物であることが分かる。

 電話の発明でベルは名誉と富を得た。しかし、そのために18年にもわたる裁判に神経をすりへらした。彼を守ったのは、愛する家族や友人達だった。彼の人生全体を見て気がつくのは、発明のきっかけも、豊かな人脈も、その幸せな家庭生活も、本来の研究と聴覚障害者教育での出会いがもたらしたものだということだ。例えば電話発明の発想を得たのは、音響学の研究の延長上で電気と音の関係に興味を持ったことに始まるし、彼の電話発明と企業化のパートナーである企業経営者トマス・サンダースと弁護士を開業しているG・G・ハバードとの出会いも、その子女が聴覚障害者で、ベルの個人レッスンを受けていた生徒であったところから交流が始まっている。ちなみにベルは後にハバートの娘メイベルと結婚し、幸せな家庭を築くのだが、彼女は聴覚障害者だった。

 ベルのヘレン・ケラーへの援助も長期的で心細やかな配慮に基づいたものであった。ヘレンとの出会い以後、ヘレンとアン・サリバンの教育成果を機を捉えては宣伝し、心ない人々の攻撃から守り、落ち込んだ彼女たちを慰め、時に聴覚障害者教育の専門家として必要なアドバイスを与え、ヘレンの父親が亡くなって家産が傾いてからは様々な名目で必要な経済支援を行い、更にヘレンが講演の通訳(ヘレンは小さな声でしか話せなかったので、声を大きくして聴衆に伝える必要があった)のピンチヒッターを電話で頼んだときは(サリバン先生は風邪で寝込んでいた)快く引き受けてステージにも立っている。

 ベルに名誉と富をもたらしたのは発明の成功だが、彼に安らぎと幸せをもたらしたのは、聴覚障害者教育のほうだったような気がする。

読んだ本:『孤独の克服――グラハム・ベルの生涯』(NTT出版、1991)

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